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福井地方裁判所 昭和33年(わ)41号 判決 1962年12月21日

被告人 福岡三太郎 外二名

主文

被告人三名を各懲役二月に処する。

但し、被告人三名に対し、この裁判確定の日から一年間いずれも右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、全部被告人三名の連帯負担とする。

理由

(事実)

第一、本件争議に至る経緯

一、本件争議前における福井鉄道労働組合の性格

福井鉄道労働組合(以下単に福鉄労組と略称する)は、昭和二一年頃結成され、福井鉄道株式会社(以下単に会社と略称する)の自動車営業部門を除く電車営業部門の従業員五〇〇名余を以て組織する組合である(なお、昭和二七、八年頃迄は福井鉄道従業員組合と称していた)が、昭和三一年頃迄は自主性に欠け運営の実権は一部幹部に掌握されて、多数組合員の意思は充分反映されず、日本私鉄労働組合総連合会(以下単に私鉄総連と略称する)への加入の如きは、再三組合大会で決議されながらも組合幹部に押えられて実現できず、また労働条件は劣悪で平均賃金、労働時間、退職金など北陸地方の私鉄企業のうち最低であつたが、争議は一度も発生していなかつた。

然しながら、次第にこうした組合の在り方に批判、反省がなされるようになり、昭和三二年四月の役員選挙において、福鉄労組は被告人福岡を執行委員長に、同宮村を副執行委員長に、栗田実を書記長にそれぞれ選任し、会社に対し強い態度で望むように変つていつた。

二、福井鉄道第一労働組合の結成と福鉄労組のスト権確立

ところが、同年一一月初旬頃より越年資金の要求をめぐつて組合内部で意見が岐れ、被告人福岡ら執行部が従来の低賃金に鑑み強く要求を出し、会社に対し強硬な態度で臨む必要がある旨考えていたのに対し、旧幹部である牧野政一、辻隆智らはこうした組合の在り方に反対して新組合の結成を企図し、その頃被告人福岡ら執行部が、専従組合員の協定について福井県地方労働委員会に斡旋方を申請したことが、組合内部でルール違反として問題にされ、その責を負つて被告人福岡ら執行部が総辞職するや、その機会を利用して右牧野、辻ら相当数の組合員が福鉄労組を脱退し、同月二二日頃事業と共に繁栄することを標榜する福井鉄道第一労働組合(以下単に第一労組と略称する)を新たに結成し、組合長に辻隆智、副組合長に内藤一馬、書記長に伊藤武平が各就任し、そして本件争議直前頃には組合員の数も福鉄労組と略々同数若しくは僅かに上廻る二六〇名余を有するに至つた。

そこで福鉄労組は、同月二五日頃武生市公会堂において福鉄労組の第一五回臨時大会を開き、被告人福岡、同宮村ら三役を再選し、私鉄総連への加入を決定すると共に越年資金として一・八ヶ月分を会社に要求することとし、右要求についてストライキを行うことの決定権を執行部に委任する旨の決議を行いスト権を確立した。次いで、同月二七日被告人福岡、同宮村ら執行部は武生市北府中町の労働会館内福鉄労組事務所においてスト実施についての第一回執行委員会を開くと共に、同日労働関係調整法第三七条の定めるところに従い、福井県地方労働委員会並びに福井県知事に一二月八日以降ストライキを行うことあるべき旨の通知をなし、会社との団体交渉が不調に終りストライキに入る場合に備えるに至つた。

第二、本件犯行の共謀

被告人福岡、同宮村ら福鉄労組執行委員は、同月三〇日午后前記組合事務所において職場委員約二〇名及び日本私鉄労働組合北陸地方連合会(以下単に私鉄労組北陸地連と略称する)書記長越野義次、同書記米谷久義らを交えて第一回臨時委員会を開催し、その席上越年資金獲得の団体交渉が不調に終つた場合一二月八日午前零時を期して福武線全線に亘る二四時間ストライキ(南越線、鯖浦線については就労拒否)を実施する旨決定したが、その具体的方法は被告人福岡、同宮村ら執行部に一任されるところとなり、次いて同年一二月二日午后被告人福岡、同宮村ら執行部は、前記組合事務所において執行委員会を開催し、右第一回臨時委員会で一任せられたところに従い、争議の具体的方法について検討をし、福井県乗合自動車労働組合の闘争指令(証第五九号)などを参考にして闘争指令第一号ストライキ実施要綱(証第一一号及び同第一六号など参照)を立案したが、右要綱中スト防衛についての項は、ストライキの実効を期すため、会社が当日列車の運転を実施する際には駅事務所出入口、電車の乗降口などにピケを張りスクラムを組んで会社側乗務員らの就労を阻止し、或はまた電車前面にピケを張つて発車を阻止するなど必要な手段を用いてあくまでも会社の列車運行業務を阻止することの趣旨をもつて作成し、翌三日頃ピケ配置計画などを記載した闘争指令第二号(証第一五号など)と共にこれを福鉄労組員に配付し、以後一二月八日スト突入に至る迄の間、職場集会、非番公休者集会、共闘会議、臨時委員会、副班長以上の責任者会議など数次の会合を通じて福鉄労組員などに叙上の趣旨を周知徹底させ、その間被告人福岡、同宮村らは多数福鉄労組員らと、本件ストに際して駅事務所出入口、電車周辺などにピケを張りスクラムを組むなどして会社側乗務員らの就労を阻止し、なお乗務員らが就労しようとして出て来る時はスクラムを組むなどして押し返し、万一電車が発車するような事態に立至つた場合には電車前面の線路上にスクラムを組んだり座り込んだりなどしてあくまでもその運行を阻止することを謀議し、なお被告人杉原は同月四日福鉄労組の上部団体である私鉄労組北陸地連よりオルグ員として本件争議に派遣され右謀議に参加したものである。

第三、本件犯行の実行

福鉄労組は、会社との団体交渉が不調に終り、一二月八日午前零時を期して福武線全線の二四時間ストに突入したが、武生新駅のピケの総責任者である被告人杉原を始め現場責任者である斎藤松太郎、班長小林実、同髪元伍一ら福鉄労組のピケ員多数は、武生市東元町所在の武生新駅において、支援団体のピケ員と共に会社側の立入禁止の指定を無視して同駅二番線・三番線に各留置中の電車(合計六輛)のうちの数輛に立ち入り、会社側の再三の立退きの要求も拒否し、前記共謀に基いて会社側の始発列車よりの運転業務を阻止すべく待機していたものであるが

一、同日午前五時頃、会社の業務命令に基き運転課長千葉謙治、武生新駅々長大沢繁蔵、福武線乗務区長渡辺重二、運転士鈴木一男らの乗務員及び検車要員ら約一七、八名の会社側従業員は午前五時五四分発福井駅前行始発五〇三列車(モハ一二一号)の発車準備のため、検車並びに仕業点検などの目的で、同駅事務室を出て二番線・三番線ホーム(通称中ホーム)中間附近迄赴いたところ、同中ホーム両側に各留置中の電車内から待機中の福鉄労組のピケ員ら数十名が、一斉に出て来て右千葉ら会社側従業員の前面、周囲に立塞つて人垣を作り、被告人杉原及び前記斎藤、小林、髪元らが先頭に立ち、右千葉らに暴言を浴せながらスクラムを組み、或は人垣を以てその前進を阻止し、ワツシヨイ、ワツシヨイと掛声をかけながら肩、胸などで右千葉ら会社側従業員を駅事務室に向つて押し返すなどして前記五〇三列車の発車を不能ならしめ

二、同日午前六時頃、同六時二四分発福井駅前行五五三列車(モハ一二一号)を発車させるべく、前同様の目的で再び前記千葉運転課長以下乗務員、検車要員ら約一七、八名の会社側従業員が、駅事務室から中ホームに向うや、同ホーム南端附近において被告人杉原及び前記小林、髪元ら数十名のピケ員は、スクラムを組み、人垣を作るなどして右千葉らの前進を阻止し、なお右千葉らが前進しようとするや、被告人杉原らのピケ員は再びワツシヨイ、ワツシヨイと掛声をかけながら肩などで右千葉ら会社側従業員を駅事務室出入口附近迄押し戻して前記五五三列車の発車を不能ならしめ

三、同日午后二時頃、同二時二四分発福井駅前行五六九列車(モハ一二一号)を発車させるべく、前同様の目的で、前記千葉運転課長、乗務員、検車要員らと、その他応援に来た三田村企画室長、五十嵐人事課長ら会社幹部を加えた総勢二七、八名の会社側従業員が、駅事務室から中ホームに向うや、被告人杉原及び前記小林、髪元らピケ員数十名は急拠同ホーム南端附近に駈けより立塞つてこれを阻止した上、右千葉ら会社側従業員を肩、手などで間断なく押して駅事務室内に押し戻し、因つて前記五六九列車の発車を不能ならしめ

四、同日午后二時三〇分頃、同二時五四分発福井駅前行五二一列車(モハ一二一号)を発車させるべく、前同様の目的で前記千葉運転課長以下、乗務員、検車要員らを含む会社側従業員凡そ三〇名位が、駅事務室出入口から出るや、附近でスクラムを組み待機していた多数ピケ員が、右千葉らを取り囲み、なお前進しようとする右千葉らに対し、被告人三名は前記小林、髪元ら多数ピケ員と共に掛声に合せながら右千葉らを胸、肩などで激しく押し返すなどして、右千葉ら会社側従業員を駅事務室に押し戻して前記五二一列車の発車を不能ならしめ

五、同日午后三時頃、同三時二四分発福井駅前行五七一列車(モハ一二一号)を発車させるべく、前同様の目的で前記千葉運転課長以下乗務員、検車要員らを含む会社側従業員凡そ三〇名位が、駅事務室及び乗務員詰所の各出入口から二手に分れて中ホームに出ようとするや、ピケ員数十名が駅事務室出入口附近に他のピケ員七、八名が乗務員詰所出入口附近にピケを張つて待機し、被告人杉原及び前記小林、髪元らは、多数ピケ員と共に各出入口附近において会社側従業員を激しく押し返すなどし、なお前進しようとする会社側従業員と激しく押し合い、混乱状態となつたが、結局会社側従業員は力負けして駅事務所内に押し戻され

六、同日午后三時二〇分頃、再び右五七一列車を発車させるべく前同様の目的で、千葉運転課長以下乗務員、検車要員らを含む会社側従業員凡そ三〇名位が、前同様二手に分れ前記各出入口より中ホームに出ようとするや、被告人杉原及び前記小林、髪元ら多数ピケ員は、右千葉ら会社側従業員を肩、肘などで押し返し、遂に前同様各出入口附近で両者押し合いの混乱状態になつたが、その際武生警察署員数十名が出動して被告人杉原らピケ員を排除したので、右千葉らは三番線北端に留置中のモハ一二一号電車に至り、運転士鈴木一男、車掌宇野昭一郎らの乗務員が乗車し、検車並びに仕業点検を終了し、乗客六、七名を乗せて発車しようとしたが、被告人杉原、同宮村、斎藤巌らピケ員数十名は、あくまでこれが発車を阻止すべく、その前面線路上に立塞り或は座り込むなどして、同人らの生命、身体に対する危険を無視することなくしては発車することを不能ならしめ次いで警察官が被告人杉原、同宮村らピケ員を線路上から排除したので、同列車は定刻より一四分位遅れて午后三時三八分頃警笛を吹鳴しながら発車し、徐々に進行するに至つたが、被告人杉原、同宮村らは再び多数ピケ員らと共に列車前面の線路上に座り込みを行い、警察官の排除に拘らず執拗に座り込みを繰り返し、更に被告人杉原、同宮村は、同列車が約一〇〇米進行した地点において多数ピケ員らと共に、列車前面の線路上に座り込み、或は立塞るなどしてその進行を前同様不能ならしめ、遂には会社をしてこれが運行を断念するのやむなきに至らしめ以て被告人三名は、多数福鉄労組員と共謀の上、右のとおり威力を示して会社の列車運行業務を妨害したものである。

(証拠の標目)(略)

(弁護人らの主張に対する判断)

ピケの正当性につき、検察官が、ストライキの本質は労務提供の拒否にあるからピケはその対象の如何に拘らず平和的説得ないし団結力の示威の範囲または集団的行為そのものに伴う心理的圧迫などの範囲内にとどまるべきで、右の程度を超えたものは違法なりとする立場から、本件ピケは会社側の電車運転を実力で阻止することを企図したものであり、前記認定のような激越な電車運転阻止の行為はピケの正当性の範囲を遙かに超えた違法なものである旨主張する(論告要旨四二丁裏以下)のに対し、弁護人らは労働争議のもつ社会的対抗行為としての性格に着目し、ピケの限界も相手方即ち使用者及びその影響下にある第二組合たる第一労組の行動との相対関係において、また争議に介入した警察官の行為との相対関係において判断さるべきものであり、その正当性は諸種の条件との関連において決定さるべきものであるとする立場から、本件において考慮さるべき諸般の状況として幾多の事情を主張し、これらの事情をみれば、本件ピケ特に被告人三名の行為は結局正当行為であり且つ正当防衛であり、或はまた緊急避難行為に該当する旨主張する(弁論要旨(一)の総論、同要旨(二)の六四丁表以下及び同要旨(三)の第三の四)。そして弁護人らの主張する右の各事情のうちには、それ自体独立しても犯罪の成立を阻却する事由として主張されているものが認められるから、説明の便宜上先ず順次それらの事情を検討、判断した上、最後に本件ピケの正当性について総合判断することとする。

第一、会社側・第一労組のスト破りの有無及び正当行為若しくは正当防衛の成否について

この点に関する弁護人らの主張(弁論要旨(一)の三二丁裏以下五一丁表迄、弁護要旨(三)の第三の一)の要旨は、会社は第一労組と結託して予め福鉄労組のピケ破りを企図し、その目的の下に保安要員を準備しており、スト当日の午前二回、午后三回ないし四回に亘る会社側及び第一労組員によるホームへの集団的押し出しも明らかにピケを実力で排除する目的でなされたもので、その出動の態様も甚しく暴力的であり挑発的であつて、これに対し福鉄労組員らが、スクラムを組み、押し出してくる者の前に立塞つて阻止し、短時間押し合いになるのはむしろ必然的であり、スト防衛のため最少限度のやむを得ざる受動的、防衛的行為であつて(なお、当日第一労組の一般組合員は幹部らの猛烈な出動に反し、次第に出動について消極的になつていつた事情も存在しているのであるから)、かかる状況の下に行われた福鉄労組のピケツテイングは、スト防衛上やむを得ざるものでこの一点のみにおいてもそれは正当行為であり且つ会社・第一労組のスト破りに対する正当防衛であるというにある。

よつて検討するに、前掲各証拠によればスト当日千葉運転課長以下会社側従業員の午前二回、午后三回ないし四回に亘る駅事務室または乗務員詰所より中ホームへの出動は、列車を発車させるべく、専ら検車並びに仕業点検の目的に出でたものであることが優に認定されるのであり、弁護人ら主張の如くピケ破りを企図したものとは認め難いのであるが、以下若干この点に関し説明を加えることにする。

一、保安要員の任務若しくは性格について

前掲第五回及び第六回公判調書中証人千葉謙治、第一〇回公判調書中証人酒井芳、第一八回公判調書中証人山本次作の各供述記載及び弁護人提出にかかる保安要員配置表(証第八四号)などによれば、会社側は本件争議に際し第一労組員を保安要員として要所に配置することに決め、当日武生新駅においても車輛課勤務の嵐山次一、酒井芳、沢崎博など凡そ一四、五名の保安要員を配置し、更に同日午后保線関係の保安要員である山本次作ら数名の者が、同駅に派遣されて来ており、そして右の者らは当日における前記の各出動にそれぞれ参加していることが認められるのである。然しながら、右挙示の各証拠と前掲第一八回公判調書中証人三田村甚三郎、第二六回公判調書中証人稲毛平四郎の各供述記載、更には証人畑山鶴吉の第三三回公判廷における供述、昭和三二年一二月七日付社報第二〇四号(証第三四号)及び同年同月六日付会社より福井鉄道自動車従業員組合宛の依頼書(写真・証第六〇号)の各記載を総合考察すると、会社側はスト当日福鉄労組らのピケが、福武線の要所に張られるであろうことを予想し、駅構内などを立入禁止区域とすると共に、駅舎、車輛、線路など諸設備の保安を確保するため保安要員を配置し(現に山本次作らは、同日午前中線路の保安維持のため武生新駅・下鯖江間の線路を巡回している)、なお福鉄労組らのピケ員により車輛、線路などに危険が発生し、或は会社側従業員の就労が不法に妨害されるような事態があれば、これを防止すべくピケ員を説得し、或は排除すること(更にはまた乗降客の誘導をすること)もその任務に含ましめており、スト当日も福鉄労組らのピケ員による不法な会社側従業員に対する就労阻止が現実化した事態に際し、会社側の検車要員、乗務員と共に出動し、これらの者をピケ員の妨害などから護り、或はこれらの者の検車若しくは仕業点検を補助するといつた目的で行動していたことは窺い得るが、これを以て直ちに不正不法なピケ破りということはできない。即ち、保安要員は、弁護人ら主張の如く専ら福鉄労組のピケ排除を企図して編成されたものでもまた福鉄労組のピケの目的、方法、ピケ員の言動などの如何に拘らずピケ員と相対しこれを排除することを想定していたものでもなく、まして本件において会社側が当初より実力による排除を意図していたと認むるに足る証拠はないのである(むしろ、前記社報((証第三四号))によれば、会社が当日就労する者に対しピケ隊員による不法暴力行為に応じないように、また弁護人提出の「福鉄第一労働」第一五号((証第七九号))によれば、会社が就労する者に対し暴力行為などの、不法行為に出ないようにそれぞれ戒めていたとも窺われるのである)。却つて、前掲第四回及び第五回公判調書中証人千葉謙治、第七回公判調書中証人大沢繁蔵、第八回公判調書中証人渡辺重二の各供述記載及び千葉謙治の検察官に対する昭和三三年一月二八日付供述調書によれば、福鉄労組及び支援団体の多数ピケ員は、一二月七日夜半から会社側の立入禁止を無視して二番線・三番線に各留置中の電車内に立入り、会社側のスピーカーによる退去の要求にも、更にまた千葉運転課長らが再三に亘りピケの総責任者たる被告人杉原、現場責任者たる斎藤松太郎らに対して行つたピケ員退去の申入にも応ぜず、しかも右ピケ員らは、既に認定したとおり平和的説得の範囲を超え実力を以つてしても、会社側の列車運行を阻止することを企図しておつて違法目的をもつて立入つているといい得るばかりでなく、殊に八日午前四時頃中ホームにおいて前記千葉運転課長、大沢駅長、渡辺乗務区長の三名が、再度被告人杉原らに面会を求めピケ員の退去を求めた際には、これに対し暴言を浴せ申入れに応じないばかりか、小林実ら約二、三〇名のピケ員が、右千葉らを取り巻き千葉の頭を小突き胸を押すなどの所為にも及んでいるのであり、その後もスピーカーで繰り返しなされた退去の要求にも応ぜず、あくまでも会社側の列車運行を阻止すべく待機していたことが窺われるのである。右のような状況の下で当日会社側従業員による検車並びに仕業点検が遂行されようとしたのであり、その際保安要員が前記のような目的で会社側の乗務員、検車要員らと共に出動したことは、叙上の違法性を帯びたピケツテイングとの関係においてみれば、許さるべき措置でありこれを違法視すべき理由はない。してみれば、福鉄労組らのピケ員が判示のように検車並びに仕業点検などの目的で出動して来た会社側従業員をスクラムを組んで阻止し或は押し返すなどの行為に及んだことは、右の説明で明らかなとおり正当行為若しくは正当防衛にあたるということはできないのである。尤も、前掲各証拠によれば、会社側も当日午后に至るや非組合員たる会社幹部或は第一労組の幹部の応援を得、殊に午后第二回目頃以降の出動においては福鉄労組の違法なピケに対抗し集団の力によつて強硬にピケを突破して就労しようとし、殊に午后第三回ないし第四回目頃にはこれを実力で阻止しようとしたピケ員と駅事務室、乗務員詰所の各出入口附近で押し合いの混乱状態になつたことが窺われ、このことは叙上の違法なピケに対抗しこれによつて駅構内へ出動するより外、他に執るべき方法がなかつたため(午前中警察官の出動が得られなかつた事情は後記するとおりである)、やむを得ざるに出た権利行使の手段と解する余地がないでもないが、然し、これとても福鉄労組らのピケと同様実力行使を伴う限度において正当な権利行使となし難く違法性を帯びるが、それは結局相互に攻撃、防禦する関係で不正な侵害を相互に繰り返していたということであつて、最早かかる不正対不正の関係においては正当行為若しくは正当防衛を論ずる余地はなく、判示第三の四ないし六の、ピケ員の実力による就労阻止の行為が、一面において会社側の集団的な強硬就労に対するものであつたとしても、右の意味においてその違法性は阻却されるものでないと解するのが相当である(そして、本件において仮に会社側の前記各出動が不正不法なピケ破りであつたとしても、これに対するピケ員の所為は、弁護人ら主張の如き受動的、防衛的なものだけでなく、その程度を超え能動的、攻撃的な行為にも及んでいることが、指摘されなければならない)。

なおまた第一一回公判調書中証人牧田高雄の供述記載によるとスト当日会社側の運転要員であつた同人は、午前第二回目頃の出動の際、中ホームにおいて話合いでは解決できずとしてピケ員の先頭にいた被告人杉原に対し体当りをしたという趣旨の記載があり(同人の供述記載の信憑力は全体として充分吟味さるべきではあるが)、その際の状況からみて違法なピケに対するものとはいえ、同人の右の所為はその暴行の限度において違法性を帯びるということができるであろうが、この一事を以てその際の会社側従業員の出動が全体として違法性を帯びるとはいえないし、また本件において右のように評価すべき事実関係も存在しないのである。

二、会社側従業員の出動の目的について

スト当日における会社側従業員の前記各出動が、列車を発車させるべく、専ら検車並びに仕業点検の目的に出でていたことは既に述べたとおりであり、弁護人らの主張する如く、右がピケ破りを糊塗するための口実であつたとは到底認められないのである(勿論検車並びに仕業点検の目的といつても、それだけに限定する意味でなく、列車の発車に必要な準備、或は手続、例えば前掲第五回及び第六回公判調書中証人千葉謙治、第九回公判調書中証人尾崎保、第一九回公判調書中証人小川清の各供述記載などによれば、車内の清掃或は点検、線路上に障害物があるか否かの点検、更に駅長においては点検終了後発車の指示をなすなどのことも予定して出動していたことが、窺われるのである)。

成程、福井鉄道運転取扱心得第一九条、車輛仕業点検心得第二条(証第五二号所収)によれば、仕業点検とは、列車または車輛を乗務員が仕業前または必要ある時に自己の乗務する車輛を外部より容易に点検できる箇所について行う点検をいうのであり、右点検心得第一条によればそれは乗務員即ち運転士、車掌及び制動機を取り扱うために列車に乗務したもの(前記運転取扱心得第二条の八七参照)が行うべきものとされているところ、前記のとおり当日出動したもののなかには、乗務員、検車要員の外に、千葉運転課長、大沢駅長、渡辺乗務区長、非組合員たる会社幹部、第一労組の幹部、保安要員なども加つており、通常の場合と異り多数のものによつて遂行されようとしたことが認められるのである。然しながら前掲第六回公判調書中証人千葉謙治、第七回公判調書中証人大沢繁蔵の各供述記載を総合すると、当日福鉄労組らの多数ピケ員が前夜から留置中の電車内に火鉢を持込むなどして立入つており、車輛の仕業点検だけでなく検車の必要も認められ(地方鉄道運転規則((運輸省令第九九号・証第五〇号所収))第三一条第四二条各参照)、且つ右を遂行するに際し、多数ピケ員によりこれが妨害されることが、充分予想される状態であつたため、乗務員などをピケ員の妨害などから護り、或はこれが補助ということで右の措置が採られたのであつて、その事から会社側従業員に検車或は仕業点検の目的がなかつたとは到底結論できず、むしろ前掲各証拠によれば、福鉄労組らのピケ員も、会社側従業員が仕業点検などの目的で出動して来たことを知りながら判示の如く実力でこれを阻止したことが充分窺われるのであるから、この点に関する弁護人らの主張も亦採用し難いものがある。

三、第一労組員の就労の経過及び就労の意思について

スト当日、第一労組員が会社の業務命令に基き千葉運転課長らと共に検車並びに仕業点検などの目的で出動したことは既に述べたとおりであり、前掲各証拠によれば第一労組は会社とその意を共にし、会社に協力してスト当日の列車運行を図つたことが窺われるが、然しながら右第一労組員の就労は、会社側の要請若しくは督促によるものでなく、専ら第一労組員の自発的な意思決定に基くものと認められ(第一労組は、一二月六日越年資金一・七ヶ月分で会社側と妥結し、同日第一労組の第二回臨時委員会で会社の業務命令に従つて就労することを決議していたものであり)、またスト当日前記各出動に参加した第一労組員の多くが真実就労する意思を有していたことも前掲各証拠より充分窺い得るところであり、従つて会社側が就労の意思のない第一労組員をしてことさら福鉄労組のストライキを妨害しようとしたものとは認められない。そして、また本件争議前から会社との間に労働契約が存し且つ福鉄労組の統制外に立つ第一労組員或は非組合員たる会社幹部が、会社の業務命令に従い自己の自由意思で就労すること自体は、後記する如きストライキの本質に徴し、右就労の結果本件争議の効果が減殺されることになるからといつて、直ちに福鉄労組のストライキ権に対する不正な侵害行為と解することはできないのである。

以上、検討したところで明らかなように、弁護人らの前記第一の主張はいずれの点よりするも首肯し難く、結局採用することはできない。

なお、また弁護人らは、福鉄労組側が、団交や話し合いを求めているのに会社はこれを拒否し、ピケツトを不能ならしめるため、いたずらに構内からの立退きを要求し、スト破りを強行しようとしている場合、これを説得阻止するために、福鉄労組員が、構内にあつてピケツトをはるのは、誠にやむを得ない手段であつて、これを違法ということはできない旨主張する(弁論要旨(一)の六四丁裏以下六八丁裏迄)が、会社側に団交拒否の事実があつたか否かの点は暫らくおくとしても、その余の点が採用し難いものであることは、前記一及び三の説明に徴し明らかなところである。

第二、会社側のスキヤツプ禁止条項違反の有無と自救行為の成否について

この点に関する弁護人らの主張(弁論要旨(一)の五一丁表以下六三丁裏迄)の要旨は、会社は福鉄労組との間に存する労働協約上のスキヤツプ禁止条項に違反して第一労組員に代替就労を命じ、福鉄労組の争議を違法にも妨害しようとした事情があり、しかも右の措置は被告人福岡、同宮村らが強く抗議し撤回を求めたのに毫も反省せず強行せられたものであつて、争議行為のような対抗的闘争的状況においてスキヤツプ禁止条項違反の如き重大な違反行為を目前にしてこれは債務不履行に過ぎないとして拱手傍観するならば、争議は決定的敗北を招くこと必定であるから、この相手の違反行為を制止、反省せしめるべくピケを強化し、或はスクラムを組んで立塞り、又一時スキヤツプが押し出してくるのを阻止する程度のことは、まさに自救行為にあたり本件は実質的違法性を欠く(そして代替業務の不当性は非組合員たる会社幹部によつて遂行される場合でも変らず、本件において代替業務及び保安要員業務に従事した第一労組員は同時に典型的なスト破りの性格をもつていた)というにある。

一、協約の存在と会社側の協約違反の有無について

よつて右の点を検討するに、先ず弁護人提出にかかる労働協約(証第五五号)によれば、昭和三一年一一月一五日福鉄労組及び自動車労組が会社との間に締結した労働協約の第八九条には「争議行為中の申合せ」と題し「争議中は左記事項を厳守しなければならない」とし、その第四号には「会社は争議期間中営業に関し組合員以外の者と労務供給契約をしない」旨のいわゆるスキヤツプ禁止条項が規定されていることが、また覚書(写真・証第五七号)によれば、右協約は昭和三二年一一月一四日労使双方によつて自動延長が確認され、本件争議当時にも右条項が有効に存続していたことが、それぞれ認められるのである。

ところで、前掲各証拠殊に第四回、第五回及び第六回公判調書中証人千葉謙治、第八回公判調書中証人渡辺重二の各供述記載、千葉謙治の検察官に対する昭和三三年一月二八日付供述調書及び社報第二〇五号(証第三三号、同第六一号)によれば、会社は、本件争議の前日である一二月七日、当時運転士、車掌など列車乗務関係者の多くが福鉄労組に所属していたため、スト中の列車運行を確保すべく、社報または口頭でストに突入する福鉄労組員に代え、かつて運転士若しくは車掌の職種にあつた者を選んで臨時に当日の運転士または車掌に任命し、そしてそれに基きスト当日武生新駅に運転士の職務を扱うものとして鈴木一男ら数名の福武線勤務の運転士の外に、車輛課勤務の技工、検車手などのうちで運転免許を有していた牧田高雄、二本松厳ら約五、六名の者を、また車掌の職務を扱う者としていずれも本社勤務の宇野昭一郎、小川清ら約八名の者を、各配置したことが認められるのであり、会社側の右の措置と前記スキヤツプ禁止条項との関係如何が、次に問題とされなければならない。

そこで、先ず前記スキヤツプ禁止条項の目的、意味若しくは効力の及ぶ範囲などを考察するに、その文言は、前記のとおり「会社は営業に関し組合員(ここにいう組合が、右協約締結の一方の当事者である福鉄労組若しくは自動車労組を指称するものであることは文理上明らかであるが)以外の者と労務供給契約をしない」というのであつて、専ら組合員以外の者と労働契約を締結すること、つまり新たに組合員以外の者を雇入れることを禁止する趣旨に出たものの如く窺われるのであつて、本件において会社側の採つた前記の措置即ち、就に会社との間に労働契約の存する第一労組員に対し、業務命令を以て職種などを変更し、争議中の組合員に代えて就労させることは、必しも右条項に抵触するものでないと解する余地がないでもない(第二六回公判調書中証人稲毛平四郎の供述記載のうちには、右の解釈に副う部分があり、また前記協約の締結及び効力延長の当時において、会社の電車営業部門には福鉄労組しか存在せず、従つて右条項が争議に入つた際、本件における如く第一労組員が就労するような場合をも予想した上で締結されたものであるか否かについては明らかでない)。

然しながら、右スキヤツプ禁止条項も、一般のそれと同じく、専ら争議を行うべき組合の立場に立脚し、争議中の代替就労を禁止して争議の実効性を確保し、延いては組合の団結を強化する目的に出たものであつて、その趣旨とするところは、会社が争議中の組合員に代え、それ以外の者から労務提供を受けること(代替就労)を禁止することにあると解すべく、従つて、この意味においては代替就労する者の性格如何は必しも重要でなく、代替就労である限りそれが新たに雇入れた者による場合は勿論のこと、既に会社との間に労働契約の存在する第一労組員による場合であつても、なお会社は右条項違反の責を免がるることはできないと解するのが、相当である(尤も、第一労組員は、後記する如くその本来的業務の範囲内においては就労権を有し、その限度においては右スキヤツプ禁止条項の適用はないと考えられるのであるが、その範囲を超え争議中の組合員の代替就労につくときは、実質的にみても新たに雇傭された者が代替就労につく場合と同一視し得るのであり、右スキヤツプ禁止条項の適用を受けるものと解される)。

そして、また前掲被告人福岡の第三九回公判廷における供述と弁護人提出にかかる議事録(写真・証第五八号)を併せ考えると本件争議の終了後である昭和三四年一二月九日、会社と福鉄労組との団体交渉の席上において、福鉄労組側から、本件争議の際右スキヤツプ禁止条項が存在したのに拘らず、会社側が前記の如き措置に出たことは遺憾であり、これが趣旨を明確にするため「会社は、業務上の命令によつて従業員の勤務態様、職種変更その他により組合の正常な争議行為を妨害しない」旨の協約を設けるよう申入れたところ、会社側も組合の要求する趣旨を了解するに至つたので、特に協約を改定する迄もなく、当事者双方が右の趣旨を確認するだけにとどめた経緯が、窺われるのであり(これは必しも本件争議当時前記条項に対し、労使双方が、右の趣旨の如き理解をもつていたこと迄も推認させるものではないが)、一応前記の解釈に副う事情といい得る。

なお、また第一労組は既に認定したとおり、本件争議の前である昭和三三年一一月二二日頃、福鉄労組の在り方に反対し、これから集団的に脱退した組合員により新たに結成された組合で、本件争議当時、福鉄労組と略々同数若しくは僅かにこれを上廻る二六〇名余(会社の電車営業部門の従業員の過半数)の組合員を有していたものと認められ、従つてこのように多数組合員が集団的に脱退したため、スキヤツプ禁止条項の目的とする組合の統一的基盤が失われてしまつたような場合には、最早そのスキヤツプ禁止条項は新組合員を適用の対象とすべきでないとする見解(東京高裁昭和三六年七月一四日決定・労働関係民事裁判例集第一二巻四号、東京地裁昭和三六年三月二八日右裁判例集第一二巻二号参照)も存するが、これは俄かに賛成し難いものがある。むしろ、かかる場合にこそスキヤツプ禁止条項の適用が最も要請されるのであり、法理的にも組合の締結した協約が、構成員の脱退により(団体として存続している限り)当然には失効しないというべきであり、ただ本件でも問題とされている如くユニオンシヨツプ条項は、脱退した者にも団結権が肯定される結果その適用がないとされるのであり、これと同様の意味において第一労組員がスキヤツプ禁止条項の適用を免れるのは、その者に就労権の認められる範囲(即ち、本来的業務に従事する限度)においてであり、その範囲を超え争議中の組合員の代替就労にあたると認められるときは、依然スキヤツプ禁止条項の適用があると解するのが相当である。

してみれば、会社が、本件争議に際し、第一労組員を臨時に運転士若しくは車掌に任命し就労させようとした前記の措置は、その者らの本来的業務の範囲でなく、争議中の福鉄労組員の代替就労にあたると認められ、前記スキヤツプ禁止条項に違反しているものといわなければならない(尤も、福武線勤務の鈴木一男ら運転士、大沢駅長、清水助役、千葉運転課長らは、各自その本来的な業務の範囲内で職務を遂行していたと認められ、福鉄労組員の代替就労にあたるとは認め難い)。

二、スキヤツプ禁止条項違反の効果及び自救行為の成否について

しかして、スキヤツプ禁止条項は、労働協約のうちいわゆる債務的部分に属するから、これに違反した場合債務不履行の効果を生ずることは理論上当然であるが(東京地裁昭和三一年八月一五日決定、労働関係民事裁判例集第七巻四号参照)、しかしそれが刑法的見地においてどのように考慮さるべきかについては問題がある。検察官は、本件争議当時会社と福鉄労組との間に職場代置禁止条項が存続したとしながら、その違反は単に労働協約上の債務不履行となるに過ぎず、右協約の存在によつて判示の如き実力による就労阻止の行為の違法性を阻却するものでないと結論するが(論告要旨四二丁裏以下四三丁裏迄)、然し、本件においては、被告人福岡らは、本件争議の前日である一二月七日前記の如く会社側が臨時に運転士または車掌を任命したのに対し、これは前記スキヤツプ禁止条項に違反する措置であるとして、会社側の五十嵐人事課長にその中止方を口頭で申入れている事情も窺われている(前掲被告人福岡の第三八回公判廷における供述及び同人の司法警察員に対する昭和三三年二月一日付供述調書第一一項参照)のであるから、一応前記の点を検討してみる必要がある。

先ず、会社側にスキヤツプ禁止条項違反の事実がある場合、これに対抗する福鉄労組側のピケツテイングは、その正当性の範囲を拡大するか否かの問題があり、この点については積極に解する見解も存するところではあるが、然し、スキヤツプ禁止条項違反は、本来労働協約上の債務不履行にとどまるものであり、その不当性は、別途救済さるべきであつて、それがあるからといつて少くとも判示の如き、多数ピケ員がスクラムを組むなどして立塞り或は押し返すなどして会社側従業員の就労を実力で阻止した行為(しかも、後記の如く代替就労者だけを対象としたものでない)がすべて当然に正当な行為として許容される理由は見出し難く、ただ正当防衛、自救行為などの要件を具備している場合に限り、その違法性は阻却されると解するのが相当である。

そこで、次に労働協約上の請求権保全という観点から自救行為の成否を検討するに、刑法上自救行為とは、一定の権利を有する者が、これを保全するため官憲の手を待つに遑なく、自ら直ちに必要の限度において適当な行為をすることをいうのであるが、本件ピケは、既に認定したとおりストの実効を期すため会社の列車運行業務を実力を以つてしても阻止することを企図していたもので、会社側の立入禁止を無視して駅構内に立入り、代替就労者であると否とを問わず凡そ就労しようとする会社側従業員を対象とし、多数ピケ員が判示のとおりスクラムを組むなどして立塞り或は駅事務所内に押し返すなどして会社側従業員の就労を阻止したのであつて、前記権利保全の目的に出でたものとは認め難いのみならず、その阻止の態様、押し返しの程度なども単に防衛的、阻止的なものでなく、かなり激越な行為、方法に及んでいるのであり、その手段、方法においても適当ということができないから、その余の点を判断する迄もなく自救行為の成立を認めることはできない。そして、また右の事実関係の下において正当防衛の成立を認めることも亦困難である。

以上検討したところで明らかなように、弁護人らの前記第二の主張は、爾余の事情を考慮する迄もなく採用し難いところである。

第三、会社業務の違法性と威力業務妨害罪の保護法益の存否について

この点に関する弁護人らの主張(弁論要旨(一)の七三丁表以下七九丁裏迄)の要旨は、事件当日武生新駅において会社が企図した運転業務は、適法な資格を有せず、また法規で定められた考査を受けない者によつて遂行されようとしたのであつて、かかる違法な業務は阻止されるのが当然であり、法律上保護さるべき対象とはなり得ず業務妨害罪の保護法益を有しないものであつて既にこの点において威力業務妨害罪は成立するに由ないというにある。

よつて検討するに、前掲第四回及び第六回公判調書中証人千葉謙治、第七回公判調書中証人大沢繁蔵の各供述記載によれば、会社の経営する福武線は、地方鉄道法及び軌道法に基く(武生新駅から福井新駅迄の間が、地方鉄道法の適用を、福井市内の田原町駅から福井新駅迄の間が軌道法の適用をそれぞれ受けている)ものであつて、鉄道営業法及び軌道法の定めるところに従い、且つ運転安全についての関係法規を遵守して業務を行うべき義務があるというべきところ、地方鉄道運転規則(運輸省令第九九号)の第二条(証第五〇号所収)は、先ず地方鉄道の運転は右規則の定めるところによるべきことを明らかにすると共に、第七条は「係員は、列車又は車輛を安全に運転するため充分な知識技能を保有しなければならない。」旨定め、更に同条の二は「動力車を操縦する作業及びその補助作業、列車防護、制動機の取扱又は推進運転等のため列車に乗務する作業等を行う係員については、適性検査を行い、その作業を行うのに必要な保安のための教育を施し、作業を行うのに必要な知識及び技能を保有することを確めた後でなければ、作業を行わせてはならない。」と規定し(なお軌道運転規則((運輸省令第二二号))の第七条、第七条の二にも略々同趣旨の規定がある)、更にこの規定にいう係員の教育及び訓練の実施については鉄道監督局長通達(鉄運第二九号・証第五一号所収)が「地方鉄道業者若しくは軌道業者は、運転関係々員について、少くとも年一回の身体機能検査と、少くとも三年に一回の精神機能検査を行うべきものとし、更に運転に関する規定などの記憶理解及び実行の程度を確めるために少くとも年一回の確認検査をすべきもの」としていることは、すべて弁護人らの指摘するとおりである。

そして、また鉄道営業法第一条及び軌道法第一四条の規定に基いて定められた運転の安全の確保に関する省令(運輸省令第五五号)の第三条により更に定められた福井鉄道運転安全規範第五条(証第五三号所収)は、鉄道または軌道に関係ある従事員の資格として「従事員は別に定められた考査に合格したものでなければならない」旨規定しているのである。

ところで、前掲第四回、第五回及び第六回公判調書中証人千葉謙治、第八回公判調書中証人渡辺重二、第九回公判調書中証人二本松厳、第一六回公判調書中証人鈴木一男、第一七回公判調書中証人宇野昭一郎の各供述記載及び第一一回公判調書中証人牧田高雄、第二七回公判調書中証人福田光良(但し、被告人宮村に対する関係では公判準備における証人尋問調書として採用)、第二八回公判調書中証人渡辺重昭(但し、被告人宮村に対する関係は、右に同じ)の各供述記載によると、事件当日、会社側は武生新駅に運転要員として運転士九ないし一〇名、車掌約八名を各配置したのであるが、右運転士として配置された者のうち、当時運転士としての仕事に従事していたのは鈴木一男ら数名の者にすぎず、その他の者は主として車輛課勤務の技工、検車手などで運転免許は有していたが前記運転規則の要請する検査、殊に適性検査が忠実に実施されておらず、また車掌として配置された者は、その殆んどが本社勤務のもので(かつて車掌をした経験のある者もいたが)、その多くは、前記検査或は考査を受けていなかつたものと推認される。

この点に関し、検察官は、専ら宇野昭一郎車掌の乗務について述べ、被告人らピケ員の威力による違法な阻止行為のため混乱状態に陥り、そのため約九時間半も電車の発車が遅れていた緊急状態において車掌として二年間の経験のある宇野昭一郎が、会社の業務命令に基き携帯品を具備し、保安要員の補助と運転課長の監督の下に乗務した事実は、阻止状況との関係において流動的に観察すれば、これを違法または不当視すべき何らの理由もないと主張する(論告要旨二四丁表以下)。

然しながら、前記地方鉄道運転規則は、法律を基礎とする地方鉄道の運転に関する規範であり、また人の生命、財産などと直接的に関連する鉄道業務において、その安全は厳正且つ最高度に確保さるべきであつて(前記運転の安全の確保に関する省令第一条第二条参照)、前記運転規則第七条または第七条の二の要請は、争議中で他に乗務すべき運転要員がいないということでは勿論、被告人らピケ員の違法な阻止行為により発車が遅延していた状態があるからといつて(しかも、右の者らの乗務は、予め会社側で計画されていたもので、当日のピケ員の阻止行為のため、特に採られた措置というものではない)、直ちにそれが緩和適用されると解することはできず、従つて当日会社が遂行しようとした業務は、その一部において前記運転規則違反の瑕疵が存在したものと認められるのである。

然しながら、刑法的見地において、会社がその業務を遂行するにあたり、一部前記運転規則に違反する者を使用したからといつて、直ちにその業務全体が保護に値しないとは、速断し難い(殊に、本件において特に問題となる鈴木一男運転士は、何ら規則に反していない)のみならず、右の運転規則違反は、帰するところそれに従事する者の資格或は能力に関する制限の違反にとどまるものであつて、それによつて遂行されるものが、事実上平穏に行われている一定の業務である限り(本件において会社の列車運行業務が、それにあたること明らかである)、依然として刑法上業務妨害罪の保護法益たり得るのであつて、これを威力を以て妨害するときは威力業務妨害罪の成立があると解するのが相当である。

尤も、右のように解するにしても、事業者たる会社に対し右規則違反の責が、別途追求されることはあるべきであり、また列車運行を阻止する行為が、正当防衛或は緊急避難などの要件を具備している場合には勿論その違法性は阻却されるが、本件において右の如き事実関係は存在していないのである。

なお、また弁護人らは、会社が運転規定に違反して業務を行なおうと企図しているならば、従業員としてはこれをとがめ、反省させ、列車運行の安全を確保すべく強力なピケツトを以てこれを阻止することは正当であり、むしろ義務とさえいい得るのであつて会社の違法運転を黙過するのは条理に反する旨主張するところ(弁論要旨(一)の六四丁表)、成程、前記運転規則違反の運転により脱線、顛覆など明らかに事故の発生する虞れがあると認められるような状況があれば、争議のため職場を離れている福鉄労組員にも、該列車の発車を阻止すべき義務ありとされる場合も考えられるであろうが(福井鉄道運転安全規範第一四条参照)、本件において叙上の事実関係は認め難いのであるから、その阻止の方法が相当であつたか否かなどの点を問題とする迄もなく、この点に関する弁護人らの主張は採用できない。

第四、警察官介入及び福鉄労組員らの電車前面における座り込みなどの当否について

この点に関する弁護人らの主張(弁論要旨(一)の二の一丁表以下二ノ一七丁裏迄)の要旨は、スト当日福鉄労組員の行つた正当なピケツトに対し、武生警察署長阿部誠の指揮する数十名の警察官は、ピケの当否について充分な調査をなさず一方的な判断に基きしかも会社と通謀して違法にも争議に介入し、実力を行使して後記詳述するように極めて違法不当な方法でピケを排除したもので被告人杉原、同宮村を含むピケ隊員の行つた電車前面における線路上の座り込みは、かかる違法な警察官の介入並びに実力行使に対しやむを得ざるに出たスト防衛の方法であつて正当行為ないし緊急避難にあたるというにある。

一、警察介入の当否について

よつて先ず右の点を検討するに、前記第一ないし第三で述べたところで明らかなように、当日武生新駅において福鉄労組らの多数ピケ員が、会社側従業員の就労を実力で阻止した所為は、結局違法と判断さるべきであり、且つ本件において終局的に判断される如く威力業務妨害罪を構成するものである以上、当日の福鉄労組のピケを正当なりとする弁護人らの主張はその前提を欠くばかりでなく、仮に弁護人ら主張の如く、警察において本件の出動に際し会社側にスキヤツプ禁止条項違反の事実があるか否か、就労しようとした乗務員がその適格性を有していたか否か、或はまた会社側の配置した保安要員の任務などについて充分な調査がなされていなかつたからといつて、右の各点の事件に対する影響力が既に検討された限度のものである限り、スト当日における午前二回、午后三回ないし四回に亘る多数ピケ員による激越な押し返しなどの行為、ピケツテイングの状況などを現認しこれを違法なりと判断し出動したことは結局相当であつて、これを違法或は不当な措置ということはできない(警察官職務執行法第五条、第六条参照)。

勿論、争議行為は一種の社会的抗争状態であり、これに警察が介入するときは、その帰趨に決定的な影響を与えることも考えられるところであり、警察官においても慎重な態度が要請さるべきことはいうまでもなく、本件においても前掲第五回公判調書中証人千葉謙治、第七回公判調書中証人大沢繁蔵、第一七回公判調書中証人宇野昭一郎の各供述記載及び証人稲毛平四郎、同阿部誠の第三三回公判廷における各供述、被告人杉原の検察官に対する第二回供述調書中第四項の記載などを総合すると、会社側は当日午前八時頃から午后三時頃迄の間、電話、書面或は口頭を以て繰り返し、武生警察署に対し警察官の出動を要請したが、同署においては県警察本部に連絡し、その指示を受けつつ、警察独自の立場で出動の要否を決定すべきであるとの態度を堅持しておつて、直接同署々員をして現地の状況を確認した上で出動した経緯が窺われるのであり、右の経緯に徴し、弁護人らの主張する、武生警察署長阿部誠が会社側の稲毛営業部長に対し、警察官介入のきつかけをつくるべく第一労組員を使嗾してピケ破りを強行せしめたとの事実はもとより、警察と会社側が事前に通謀し出動或は出動の時期などを打合せていたとの事実も認め難く、第二七回公判調書中証人福田光良の供述記載及び同証人の第四二回公判廷における供述、証人飯野清、同斎藤久の第三二回公判廷における各供述、証人田中治之助の第三四回公判廷における供述などのうち、叙上の主張に副う部分は俄に採用できない。

二、ピケ排除の方法の当否について

次いで弁護人らは、本件において警察官の採つたピケ排除の方法は、警察官職務執行法第一条第二項、第六条に定める比例原則を破つた違法なものとし、即ち、仮に会社・第一労組と福鉄労組との押し合いの原因を不問とし、その制止の必要があつたとしても、その場合の制止はその際の事故を防止するに必要な範囲にとどまるべきもので、ピケツト全体を不能ならしめるような排除方法は、右の範囲を遙かに超えているのみならず、押し合いは一方的に行われているのではなく、これを突破或は排除しようとする者との間に行われているのであるから、警察官の意図が真に押し合い或はこれから生ずる危険を防止するためであつたとすれば、当然両者を引き分けるなり突破行為を制止するなりして、双方に対して制止措置が採られなければならないのに警察官の行つた実力行使は一方的に(しかも極めて乱暴な方法で)福鉄労組及び支援団体に向けられ、会社・第一労組の出動を援護したものでありこれは経営権とスト権のバランスを完全に破壊するものであつて福鉄労組らのピケ員が、叙上の警察官の違法な実力行使に対して電車前に座り込んだのは、抗議方法として正当且つやむを得ざるものである旨主張する(弁論要旨(一)の二ノ一四丁裏以下)。

然しながら、既に前記第一で検討したところで明らかなように当日武生新駅構内に張られた福鉄労組らのピケは、結局違法であり、ピケ員による判示の阻止行為は威力業務妨害罪を構成するものであり、しかも既に認定した如く、当日午前二回、午后三回ないし四回に亘り多数ピケ員によつて、会社の業務命令に基き就労しようとした会社側従業員が激しく押し返されるなどの事態が反覆されており(その間、駅事務所窓ガラスが破損され、或は会社従業員の身体に対する暴行もみられ、また警察官による必要な警告は会社側の再三に亘る退去の要求など、いずれも無視されていた)、そして警察官出動の際の駅事務室及び乗務員詰所各出入口附近での押し合いの状況などからみて、警察官が、右実力による阻止行為に参加している福鉄労組らのピケ員を一方的に排除したからといつて、警察官職務執行法第五条、第一条第二項の法意に悖る違法或は不当な措置ということはできない(尤も、午后第二回目頃以降の会社側従業員の出動においても、その実力行使を伴う限度において違法性を帯びるのであつて、この場合両者を引き分けるなど両者を制止することもできるのであるが、然し、これとても、会社側従業員の就労それ自体は権利行使として許されるのであり、またその際の状況などからみて必ずそうすべきものであつたとは、結論し難い)。まして、被告人杉原、同宮村らピケ員の判示の如き列車前面での座り込み、或はまた列車前面に立塞がるなどの所為は、警察官の介入に抗議するというよりは、既に認定した如く、専ら会社の列車運行業務を阻止することを企図したものであることが窺われるのであるから、これを目して正当行為或は緊急避難行為であるということはできない。

以上検討したところで明らかなように、前記第四の主張も亦、採用できない。

第五、本件事実関係の下において期待可能性不存在若しくは緊急避難の成否(第二回公判における主張)について

弁護人らは、会社側は第一労組員を就労させ、更に警察官を導入して積極的、発動的に実力を行使して被告人らのピケを破つて来たのであり、この実力行使に対し被告人らは受動的或は防禦的にこれに対抗したというのが偽らざる真相で、本件の被告人らの行為は期待可能性のない場合若しくは緊急避難に相当する旨主張するが、本件事実関係の下において判示被告人らの所為が期待可能性がない場合にあたるとは到底認められず、また緊急避難にも該当しないことは、既に前記第一及び第四で説明したところに徴して明らかであり、結局右の主張も亦採用し難い。

第六、ピケの正当性に対する総合的判断について

ピケの正当性について、検察官及び弁護人らは、前記のとおりそれぞれ異る見解を表明しているのであるが、本件においてもこの点の判断は重要である。何故なら本件は前記のように弁護人らによつて考慮さるべき諸般の状況として幾多の事情が主張されているのであり(弁論要旨(一)及び(三)参照)、これがピケの正当性に如何に関連するかを検討することなしには、本件犯罪の成否は最終的に決定されないからである。

凡そ争議行為は、正常な業務の運営を阻害するものではあるがそれによつて無制限に使用者或はその他の者の財産権、自由権、その他の基本的人権に対する侵害が、許されるものと解することはできない。このことは、現行憲法が勤労者に対して団結権、団体交渉権、その他の団体行動権を保障すると同時に、すべての国民に対し平等権、自由権、財産権などの基本的人権を保障していることに徴しても明らかであり、むしろ争議行為の正当性はこれら諸々の基本的人権との調和点に求めらるべきであつて(最高裁大法廷、昭和二五年一一月一五日判決・最高裁判所判例集第四巻一一号参照)、しかもそれは前者を支える労働法原理が、あくまで後者を支える近代市民法原理に対する修正原理にとどまるものである以上、近代市民法原理の基調をなす私有財産制、或は個人の人格、自由意思そのものを否定するが如き争議行為は許されずこの意味において、ストライキの本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を利用させないことにあると解すべく、これに対し使用者が対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行々為に対し暴力、脅迫を以つてこれを妨害するが如きは勿論、不法に使用者の自由意思を抑圧し、或はその財産に対する支配を阻止するような行為をなすことは許されず、しかして労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するため執られた労働者側の威力行使の手段が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には、刑法上威力業務妨害罪の成立を妨げるものでないのである(最高裁大法廷、昭和二七年一〇月二二日判決最高裁判所判例集第六巻九号、同大法廷昭和三三年五月二八日判決右判例集第一二巻八号など各参照)。

飜つて、本件をみるに、前記認定のとおり被告人福岡、同宮村の所属する福鉄労組は、会社に対し越年資金一・八月分を要求して昭和三二年一二月八日本件ストに突入したが、これに先立ち被告人福岡、同宮村及び上部団体である私鉄労組北陸地連からオルグ員として派遣されて来た被告人杉原の三名は、多数福鉄労組員らと、ストの実効を期すため実力を以つてしても会社の列車運行業務を阻止することを謀議の上、判示第三記載のとおり、会社側の立入禁止を無視して駅構内にピケを張り、就労しようとする会社側従業員(第一労組員、非組合員たる会社幹部ら)に対し、スクラムを組むなどして立塞り、或はこれを激しく押し返すなどして、あくまでもその就労を阻止し、更に警察官出動後、列車が発車しようとするや、その前面線路上に坐り込み、或は立塞がるなどの挙に出、会社の列車運行業務を妨害したのであり(なお、被告人らは本件ピケが説得のためのものであることを強調し、本件証拠上これに副うものも存在する。然しながら、前掲各証拠及びこれによつて認められる本件争議前の各種会合における被告人らの指示説明、当日のピケ員の言動、またストライキと就労拒否とを区別し、ストライキを実施する福武線の武生新駅などにのみピケ員を配置したこと、更には被告人らのストライキに対する見解などを総合検討すると、本件ピケツテイングは、単に説得というのではなく、むしろその実体は、あくまでも会社側従業員の就労を実力を以つてしても阻止することを企図していたものと認めざるを得ない)、これに前記第一ないし第四において認定した諸事情及び本件争議当時における会社の劣悪な労働条件、第一労組の性格及び分裂の経過、会社側に団体交渉を回避するが如き態度がみられたこと、更には本件争議後第一労組に非難、反省が生れ脱退者が続出して遂に崩壊するに至つた経過など諸般の事情を総合するも、被告人らの判示所為は前記ストライキの本質とその手段方法を逸脱したものと解するの外はなく結局正当な争議行為と解することはできないのである(刑法上、相手方に違法行為或は非難に値する行為などがあつたからといつて、それが正当防衛、緊急避難などの要件を具備しない限り、自らの違法行為を正当化する理由になり得るとは考え難く、量刑判断の事情にとどまるに過ぎない)。

その他本件において、争議の経緯、状況などに徴し、被告人らの判示所為につき、正当防衛、緊急避難その他違法性を阻却し、或はその責任を阻却するに足る事由は、本件全証拠を以てするも見出し難いのである。

以上、検討したところで明らかなように、結局本件は威力業務妨害罪の成立があると結論せざるを得ないのである。

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人三名の判示所為は包括して刑法第二三四条、第二三三条、第六〇条、罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当する。

よつてその情状をみるに、被告人らは本件争議につき主導的立場で参画し福鉄労組員を指導し、且つ自らも激越な実行行為の全部若しくは一部に加功しているのであつてその責任は重大であるが、然し本件争議に至る経緯(就中、会社における劣悪な労働条件、第一労組の分裂の経過など)、前記の如き会社の労働協約違反の措置、会社側従業員の運転適格、或は出動の一部態様などにも、非難さるべき点があること、更には事件後会社と福鉄労組との間に本件争議につき相互に責任を問わない旨の協定が成立しているなど被告人らに有利な情状も充分参酌さるべく、その他記録に現われた一切の情状を考慮の上、所定刑中各懲役刑を選択しその刑期範囲内で被告人三名を各懲役二月に処し、その情状刑の執行を猶予するを相当と認め刑法第二五条第一項により被告人三名に対しこの裁判確定の日から一年間いずれも右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条に則り被告人三名に全部連帯して負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 高沢新七 黒木美朝 鈴木之夫)

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